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牛肉の話し
「時事斜断」 坂本 邦雄
本紙前号の此のコラムで、先月下旬に行われた慈善事業の募金集めも兼ねた、途方もない大規模な「焼き肉大食い競争」で、パラグアイはレコード・ホルダーのアメリカを破ってギネス新記録を打ち立てたが、其の背景には近来の吾が畜産業の大きな発達があったればこその話しである事に触れた。
パラグアイの牧畜産業で一番問題なのは牛の口蹄疫である。此れは周知の通り偶蹄類(牛、水牛、山羊、羊、鹿、豚、猪)等の二股蹄の動物が感染するウイルス性の急性伝染病で、パラグアイ全土を含む南緯42度以北が要注意地域で、近隣のアルゼンチン、ウルグアイ、ブラジルやボリビアも例外ではない。唯、南緯42度以南になると気候が冷寒で比較的その危険性は低い。
此の口蹄疫は、食品汚染に敏感な欧州、日本やアメリカ等の諸国では非常に管理が煩く、其の気配が少しでも有る地域産の牛肉の輸入は煮沸肉か又はコンビーフ以外は絶対に御法度である。但し、人間には極めて稀にしか感染しなく、また患畜の乳や肉を摂取しても影響がない事もあって、パラグアイの人達は従来至って此の牛の疾病に鈍感で無関心でもあった。
然し、パラグアイ当局は近年は口蹄疫の撲滅に積極的で、全国に亘りワクチン接種キャンペーンを展開していると同時に生鮮・チルド・冷凍牛肉の輸出に力を入れて来た。2007年度の中銀輸出データを見ると牛肉は大豆、トウモロコシに次いで3番目の重要な輸出産物に伸し上った。其の主な輸出対象国はロシア、中近東其の他の諸国で、此れ迄に1位だったチリの一時不振でロシアが追い越した。なお、今年の牛肉輸出も好調で2008年度末の実績は凡そ8億ドルの新記録に達するものと予想されている。
次いで、特筆に価するのは今回パラグアイは対EU地域への牛肉輸出の「関税割当数量・ヒルトン・クォータ」を正式に取り戻した事である。パラグアイが取得した割当量は1.000トンであるが年内にも同枠内条件での牛肉輸出が開始される運びで、来年度は5.000トンに増加出来る可能性もある。此れ迄にもパラグアイは2002年と2003年の2回、ワクチン接種に依る口蹄疫清浄国のステータスを失った経緯がある。其の後、国立家畜衛生品質局(SENACSA)の懸命な努力で口蹄疫撲滅キャンペーンが効を奏し、此の度ワクチン接種付き口蹄疫清浄地域のステータスを回復したのである。然し、口蹄疫は発生し易い急性伝染病であり、決して油断は出来ない。なお、日本の様にワクチン接種付き口蹄疫清浄の条件を認めない国もあるので、SENACSAは今後共一層の集中予防対策を続け、ワクチン接種なしの口蹄疫清浄国のステータスを将来は獲得す可く熱意を燃やしている。
因みに、此れ程に煩い口蹄疫問題の査定に当たる検査機関はパリに本部を置く国際獣疫事務局(OIE)の動物疾病科学委員会で、此処からパラグアイに過去幾度となく検査ミッションが来パしている。此の度のOIEから齎(もたら)せられたヒルトン・クォータ1.000トンの朗報はSENACSA経由、パラグアイ食肉産業会議所(CPC)に移牒され、其処からOIEに依り指定、承認された次の各FRIGORIFICO(食肉加工冷凍工場)に伝達された。即ち、① Frigo Chaco, ② Frigomerc S.A., ③ Neuland Ciclo II, ④ Quality Meat 及び⑤ Independencia Guaraníの各社で、CPC当局に依れば10日以内に此れ等工場とパラグアイ牧畜 協会(ARP)のクーポ(割当)100トンを合わせてのヒルトン・クォータ(枠)1.000トン中の50%相当量がEU宛に初出荷される予定である。価格に付いては、ヒルトン枠牛肉の相場はトン当たり18,000ドルもしていたものが最近は約33%も値下がりし、12,000ドル台を上下している。然し、パラグアイがヒルトン・クォータ対象国のステータス復活を得たメリットはパラグアイ畜産業にとって大きな意義があるものである。

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tag : 2008年11月30日号
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