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2008-10-31

意地っぱり




 「時事斜断」                                  坂本 邦雄

 人間は強情なぐらいでないと世の生存競争には勝てないと云う。筆者などは大分“お目出度い”方なので中々ウダツが上がらない侭で終わって仕舞う部類だったのではと、此の良い歳になって今更乍ら思い廻らす昨今ではある。ルーゴ新政権が登場して未だ僅か2ヶ月余りの処、其の成果の良否を採点するのは酷であろう。然し、世間の遠慮ない勝手な言い草を幾つか拾って見るのも又一興である。先ず、ルーゴ大統領は“若し此れ程に強情者でなかったら、とっくにブルビシャローガ(大統領官邸)に引っ越していただろう”、と言うのがある。確かに、カトリック教会でも“ヘソ曲がり”の開放神学(Teología de la Liberación)の信奉者であるフェルナンド・ルーゴ元司教は意地っ張りだからこそローマ教王ベネディクト16世の説教にも従わず政界に身を投じ大統領に迄なったのである。そして、去る4月20日の総選挙で当選してからは内外各方面の絶対的な支持を受けて皆の畏敬の的だった。

 即ち、屈辱的な慢性貧困症に喘ぐ市民の悲願である新生パラグアイを今度こそは築いてくれる救世主の様に期待された存在である、又は“だった”のである。卑しくも一国の大統領ともなれば、全てのパラグアイ市民の望みに応え得る福祉国家を構築できる“工作機械”を縦横に使える、つまり世にも得がたい権勢を揮えるのである。而して、ルーゴが公約する“パラグアイ維新”に期待して、連日の如く世界各国から来訪する経済使節団に対し、“誠実なる能吏を適材適所に起用し、腐敗の悪名高い我がパラグアイ国のイメージを過去のものにする。内外資本家の如何を問わず皆が安心して企業進出又は起業計画が行なえる投資 振興優遇制度を約束する”、又は“街頭に彷徨(さまよ)う幼少年問題解決等の為の社会事業は自身で取り組むであろう”、等々の発言は此処6ヶ月来(4月20日以来)しばしば聞かされて来たルーゴ節で ある。処が、ルーゴ政権が発足して以来タッタ60日余りしか経っていない現在、既に多くの人達は少なからぬ幻滅を感じているのである。ストロエスネル独裁政権崩壊後の過去歴代の政権も同じ 様な事だったが、此の度はもう一つ重課(重罪)が加わった。其れは、皮肉にも政府―民衆及び 政府―マスメディア間夫々の蜜月関係が予想外に短かった事である。

 此のルーゴ政権は民主政体過渡期の歴代政権中で、唯一施政初期60日間に何一つ改革や改善の兆しを示し得なかった政府なのである。却(かえ)って治安問題は悪化する一方で、公務員の間では朝登庁しても夜は解職の辞令を手に帰宅するかも知れない、戦々兢々たる疑心暗鬼に満ちている。山では生活難で棲息地を脱出して来ては、ボロを着た或いは半裸の原住民親子がアスンシオン市の街頭で物乞いする姿が絶えない。地方では零細農民に依る大型農地の焼き討ち等の過激な活動がエスカレートしている。此れも左派思想のルーゴ大統領に甘えた農民の動きであるが、此の農民運動の中でも最近はルーゴ大統領に不平を云い出している。なお、日本人に係わる身近な問題は、イグアス移住地入植者の土地侵略を唱える自称“土地なし農民”の動きである。此れも今迄に無かった話しではないが、農民を良い食物にしているアジテーターに煽動され、農地改革が何たるものかも理解せぬ無知の一言に尽きる群集が、「パラグアイの土地はパラグアイ人の資産である、日本人は我々の土地を返して日本へ帰れ!!」、と 「 ゴーホーム ! 」を叫ぶに至っては少々穏やかではない。先日はイグアス移住地の関係者代表団が日本大使館に陳情に参じた。大使館やJICAは外交上の配慮もあって大変かも知れないが、此処はしっかりとルーゴさんに強腰で捻じ込んで貰わなくてはならない。日本側は堂々と釈明を求めるだけの正当な権利があると思える。

 因みに、ルーゴ大統領が此れ迄に採決した事柄は何かと言えば、① 紆余曲折の揚句に裁可したトランスチャコ・ラリー(10月15-19日)、② 標準時(19日0時に夏時間に入りhora oficial が60分進んだ)、③ アスンシオンとランバレ両市の間で長年紛糾中だった、ランバレ酋長の銅像を頂上に戴くランバレ山(Cerro Lambaré)の所在地であるランバレ区483ヘクタールの管轄はランバレ市に帰属するものと議決され、今回、国会上下両院を通過した所謂(いわゆる) “所管剥奪法案”は違憲だとして、大統領拒否権を発動して却下した等の僅か3件に止まる。此れはランバレ市の私邸に住むルーゴ大統領の大英断かも知れないが、ランバレ市民は隣人ルーゴに大失望であらゆる暴言、暴挙を以って抗議し、家の前にゴミを山ほど積み上げて焼くなどして“嘘つきルーゴ”とは手を切る宣言をした。ルーゴも余程舐められたもので、此んな事では大統領の威信も何もあったものではない。

 依って本文の冒頭で触れた様に、ルーゴは大統領らしく早くブルビシャローガ官邸へ引っ越したら如何か、の話しになる訳である。ルーゴ大統領はブルビシャローガに住むには随分な費用が掛かるので、無駄な国費を使いたくない事を理由に挙げているが、警護の問題もあるので早々に官邸に移った方がよろしい。引っ越しに金を掛けたくないのであれば、誰か友人の小型トラックでも借りたらどうか。其れが嫌なら2~3万ガラニーも払えば馬車屋さんが喜んで荷物を運んでくれる。其れ位の身の廻り品しか無い筈の質素な元司教ルーゴさんである。

 なお、“餅は餅屋”でルーゴさんは教会で説教するのが本職で政治家の素質は無く、国を治める大統領として国民に国法を遵守させる統治力が全く欠けると大っぴらに酷評するのは、ルイス・カスティグリオニ元副大統領である。(其の良い証拠の一つは各方面で頻繁に起きている理不尽なデモ運動や暴動を抑え切れないでいる)。処で、少々気になるのは左派思想のルーゴ大統領は、シモン・ボリバルの共和思想に基づく21世紀新自由主義を唱道するベネズエラのウーゴ・チャベス大統領に、エクアドル、ボリビアやニカラグア各国の大統領の様に左へ倣(なら)えで、 一体、何処まで傾倒しているのか?と言う疑問である。ルーゴ大統領は8月15日の就任式の翌日、早速ウーゴ・チャベス大統領を伴って、自分の古巣サンペドロ県へ赴き、熱狂する民衆の歓喜の下に ベネズエラ国との14件かに及ぶ各種政経同盟プロジェクトの覚書を締結したが其の内容は一切不問に附され、最近はマスコミに騒がれて渋々小出しに説明はしているが全貌は不明である。 国会でも此れを密約として攻撃し、其の公開を求めているが、この覚書は条約ではないので国会の批准を要するカテゴリーのものでは無いなどと屁理屈を云っては言を左右にしている。   

 パラグアイは1811年の独立以来、歴史的に外部のパターンに従った事は無く、総統ホセ・ガスパル・ロドリゲス・デ・フランシア(1814-1840独裁)、カルロス・アントニオ・ロペス(1844-1862)及びフランシスコ・ソラノ・ロペス(1862-1870)父子両大統領など元勲の護国 思想を継承した国で、シモン・ボリバルやホセ・デ・サンマルティン南米両解放者やフィデル・カストロのイデオロギーには体質的に馴染めないのである。従ってパラグアイ人には不屈の精神があり、所謂(いわゆる)ルーゴの強情も其の一つだと云って仕舞えば其れ切りだが、オイルマネーに物を言わせてボリバル思想のヘゲモニー化を着々と進めつゝあるウーゴ・チャベスに振り回されない様に、此処は良い意味に於いて、ルーゴ大統領には信念としての“強情を張って貰いたい”と云う声も聞かれるのである。





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tag : 2008年10月31日号

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