陰謀ゲーム
「時事斜断」
坂本 邦雄
若し民俗慣習のテレレと常食のマンジョ-カ以外にパラグアイ人を定義する特色を選ぶとすれば、其れは好みの政治陰謀であろう。パラグアイは植民地時代からの歴代の政府は、選挙に依った 立憲政権か又は革命政権かの如何を問わず、常習的に事実或いは架空の陰謀の中で政治が執り行われて来た。其の内で我々の記憶に未だ新しい近来の例を取って見るのも一興である。
今月の2日ー3日はストロエスネル政権が崩壊してから満20周年を迎えたが、其の後、此の地の人達は恰も日常のスポーツの如く陰謀術策を弄(もてあそ)び、却(かえ)って其の傾向は日増しに酷くなっている様で ある。アンドレス・ロドリゲス将軍がクーデターでストロエスネル長期独裁政権を覆(くつがえ)して僅か数週間後には、嘗ての“善き時代を忘れ難い”ストロエスネル信奉者達が政権奪回を期して血生臭い逆クーデターを起こし兼ねない物騒な噂が盛んに流布され、市内の大統領親衛隊付近では恐怖の大衆心理が煽(あお)られた事を記憶される方も多いと思う。
次の情けないフアン・カルロス・ワスモシ大統領(1993/98)は任期中を通じて、彼の“即位”(政権樹立)を可能ならしめた立役者、リノ・オビエド将軍の不断の揺(ゆ)さ振(ぶ)りに脅(おびや)かされ、且つマスコミ 筋の“アンテナ”は毎日の様に騎兵師団の機甲部隊の穏やかならぬ出動やワスモシ/アルガニャ派シンパの逮捕等のタ(まこと)しやかな噂がキャッチされ、一般民衆は不安の念に駆られた。
ワスモシ政権に続いたラウル・クバス大統領(1998/99)は、政治判断の誤りと自主性の欠如で(常にリノ・オビエドに操られ、借り物の政権の座に居た)、自分自身の陰謀の虜(とりこ)になり、僅か7ヶ月で政権を放りだしてブラジルへ亡命せざるを得ない羽目に陥った。
クバス大統領の辞任の後を継いで登板したのがルイス・ゴンサレス・マキ国会議長だった(1999-03)。然し、此れは憲法が定める大統領職継承順位(大統領→副大統領→国会議長→衆院 議長→大審院長官)に依り、当然昇格す可きだった時のルイス・マリア・アルガニャ副大統領が暗殺された為に“お鉢が運良く廻って来た”だけの事で、選挙で選ばれた役回りでもなく、決して大統領の器ではない酒好きの人物だったのである。其れだけに色んなエピソードがあり、酔っ払って一度はブルビシャローガ官邸のプールにスンでの事に落っこちる処だったが落ちもせずに済んだ。そして此のプールの件は象徴的な話しだが、ゴンサレス・マキは何時追い出されても可笑しくはない無能な大統領だった。
其の次のニカノル・ヅアルテ・フルトス政権(2003/08)は、上記各歴代政権よりも或いは一番 陰謀問題の話が少なかった政府だったかも知れない。パラグアイの国民は始めて民主主義の定石下で共生する術を漸く覚えたかの如しで、パラグアイの政治文化とも云える此れ迄の輪番為政者の実力行使に依る強権のゴリ押しを恐れないでも済むかの様に見えた。然し、残念なのは政権後半に至り、ニカノル 自身が其のルールのブチ壊しに当たり政界の抗争を刺激し、行政の不安定性等を来たし、不穏な雰囲気を醸し出した事は罪である。
処で、今度は国民の大(おおい)なる期待の下に“登極(とうきょく)”したフェルナンド・ルーゴ元司教は如何(どう)かと言えば、新政権発足後数週間も経たない内にルーゴは大統領府で仰々しく共同記者会見を招集し、 コロラド党とUNACE党(即ちニカノルとオビエド)が密会しルーゴ政権追い落しの陰謀を企てたと告発し、国民は此の種の不穏な動きに注意する様に呼びかけて、国内外で大きなニュースとして伝えられた。なお、一方立法府では“国会危機”なる一連の“陰謀めいた”騒動が起こり、ルーゴ大統領は国会の強行解散も辞さない発言をし、社会団体のバックで今後は国を統治する意向を仄めかせたりした。ニカノルやオビエドはルーゴの陰謀恐怖症を笑止千万な取越し苦労だと笑っているが、何とも一般の市民にして見れば迷惑な困った事である。ルーゴ政権の到来で平穏な福祉政治を期待した多くの国民は早くも失望感を味わい、「何時になったら我々はフザケタ国から真面目な国へ脱出できるのだろうか?」と嘆くのである。何(どう)も右よりの筆者などは、ストロエスネルの独裁政権は嫌いだったが、ストロエスネルの様な 強烈なリーダシップの為政者にあらざれば、此の国は未だ到底治め切れないのではと思う。

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tag : 2009年2月28日号
日系ジャーナル・2009年2月15日号の主な国内記事タイトル
◆コカ・コーラ等のステビア導入を受けてパラグアにに6500万ドルの大型投資
◆大豆生産量4割減
穀物価格の下落に干ばつの二重苦
◆隣国アルゼンチン、ウルグアイが大干ばつで酪農に大打撃
◆イランはパ国の大豆や肉の輸入に興味を示している
◆フレックス車に改造
10万キットを輸入
◆軍隊全員にチャコ地域勤務を義務化
◆他
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◆休憩室ー2009年2月15日号
◆時事斜断 『梨野(りの)氏と大浜(おばま)氏との電話の遣り取り』
◆第30回 全パ日系バレーボール大会
盛況裡に開催
◆第22回全パラグアイ青年野球大会
◆他

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tag : 2009年2月15日号
休憩室ー2009年2月15日号
早朝、神学校の公園を散歩した後、時折、近くのカフェテリアでパンとコーヒーの朝食をとる。
その店の前に「Bohemia」という花屋がある。ボヘミアと言えば確かチェコの地方の名前だ。
ボヘミアン(ジプシー)という語もこの辺に由来する。
この花屋も流れ流れて当地に来たのだろう。そういえば人は皆、漂泊のボヘミアンだ…。
近頃、韓国ドラマを良く見るようになった。ここパラグアイでも「海神・チャンボゴ」「チャングルの誓い」を2つのTVが放送している。これらはNHK・BSでも放送したので、スペイン語版があると言うことは勿論、英語版もあるのだろう。マンガ、アニメは日本を代表するものだが、日本のドラマが海外で放送されたのは「おしん」位しか思い浮かばない。
日本と韓国のドラマを比較するとキムチ&プルゴギの韓国料理とタクアンにお茶漬けサラサラの民族性、文化の違いを実感する。
韓国ドラマは、波瀾万丈のストーリーで中身がコッテリと濃く面白い。
ストーリーの基本にあるのはまさに“恨”でその復讐に全身全霊を賭ける主人公たち。その“恨”の原因となる過酷な苦難が執拗に描かれる。
その辺は我々お茶漬け民族にとってはやや重い。
韓国ドラマがパラグアイに迄、放映されるようになった背景は、国を挙げての映画産業促進政策があった。
韓国の中年以上の人たちの嫌いな国のトップは日本だが、20歳代の回答ではアメリカ、北朝鮮、中国、日本という順番になる。
その一番の理由がワールドカップ日韓共催効果だという。その時、初めて両国の若者が相手チームを応援したことによる。韓国政府は最近迄、日本の文化植民地になることを恐れて日本映画や音楽、日本語のラジオ・テレビの視聴を禁止していた。
しかし、昨今は韓国経済の興隆で日本コンプレックスが消えたことから日本文化の輸入制限を大幅に緩和した。結果、両国の文化が自由に広まっていった。韓国の文化戦略恐るべし!

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