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2009-05-31

パラグアイの教育問題




  「時事斜断」                   坂本 邦雄

 我がパラグアイに於いて未(いま)だに始まらない唯一の闘争は即ち学識の闘争だ。教育や教化は学識其のものではない。学識とは受けた教えの理解力と其の理性的な応用が出来るか如何(どう)かの問題(機能性 文盲・Analfabetismo funcional)である。パラグアイでは或る程度の知識と教育が得られるが、其れを理解する能力の啓発は教えられていない。何故なればグアラニ語を基とする教育方式では知性の啓蒙は難しいからである。

 但し、パラグアイ人の文化知能の向上を妨げているのは必ずしもグアラニ語だけの所為(せい)ではない。其の裏にはスペイン植民地時代より今日に至るカトリック教の暗愚布教(あんぐふきょう)の影響がある。従い、パラグアイ人は新しい知識を受け入れず又は理解もせず、況(ま)してや“消化”し難いのである。

 カトリック教の教導(きょうどう)は公教要理(こうきょうようり)(Catecismo)に始まる。此れは検討(けんとう)も精査(せいさ)する事なく、教えられた通りの天啓(てんけい)を“丸呑み込み”する事である。斯かる教理(きょうり)が其の他全ての基本条理(きほんじょうり)を律する。依って、パラグアイ人は一度(ひとたび)信頼した、又は信じた人物には盲従的(もうじゅうてき)に追随するのが其の国民性なのである。端的(たんてき)に云って、パラグアイ人の進歩の最大の敵たる要素は所謂(いわゆる)Catecismo(教理)とグアラニ語なのである。

 少なくも、此れ迄に一度(いちど)たりともパラグアイで学生の基礎学力検定のアンケート又は分析が行われた事を聞いた例(ためし)が無い。学徒が如何(いか)なる学術教育を受けているか、且つ其の理解力と実社会での応用、又は時の為政者の施政方針を如何様(いかよう)に解し得るか等の未知数の疑問が山積している。そうして、グアラニ語話者、二ヶ国語話者(二重言語制度)及び純スペイン語話者のカテゴリーを区別する必要がある。此れ等の問題が解明されゝばイエズス会の遺産たるパラグアイの教育事情の実態が把握され、過去パラグアイの永久的な教育制度の欠陥が案外矯正出来るかも知れない。

 パラグアイの教育は法外な失政暦(しっせいれき)であり、従ってパラグアイ国の発展は常に遅れている。一国の発達は国民教育が進まなければ得難く況(ま)してや正に所謂(いわゆる)、知識能力が激しく争われる現代に於いてやである。我が国パラグアイは、一般国民が無知無能なるが為に必然世界の最後進国に位置するのである。無知とは単に物事を知らな過ぎると云うだけではなく、本質的に物事を理解できないバカを指すものである。

 故に、学識の闘争は基本的に宗教の影響を排除しスペイン語(Castellano)の力を徹底させ従来の教育方針を抜本的に改革させる事である。此れは特に近代グワラニ言語高等学院(Instituto de Linguistica Guarani Prof. Dr. Reinaldo J.Decoud Larrosa)等の運動があるに拘わらず、若し将来グワラニ語が私語化されるかも知れないとしても、国家発達の為には決断し、決行しなければならない革新だと思われる。元々グアラニ語は過去イエズス会の人為的創造に依ったもので、遺伝的な言語ではないのである。

 教育は文明であり英知を開く事である。而して、其れを阻止する如何なる要因も除去す可きである。未来に挑戦するには、場合に依っては陋習(ろうしゅう)の影響を敢えて剔出(てきしゅつ)しなくてはならない事もある。此の為には多くの場合、勇気を要する。然し、進歩たるものを目指すには国民の教育に依る学識の向上(機能性文盲の開化)が無くしては不可能な話しである。過去の間違いを認めず、依然として不変の旧態に甘んじるのは、即ち愚の骨頂と云うものである。 

(備考:此れはラ・ナシオン紙のコラムニスト、アルベルト・バルガス・ペニャ記者の可なり厳しい論説記事の 要旨を要略したものです)。





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tag : 2009年5月31日号

2009-05-15

悪夢の復帰




     「時事斜断」
                                   坂本 邦雄


 去るメーデーの早朝、嘗てはストロエスネル政権の魔物として恐れられていたサビノ・アウグスト・モンタナロ元内務大臣が亡命先の中米ホンジュラス国から突然20年振りにTACA航空便で帰国し、未だ 目も良く覚め遣らぬ多くのアスンシオン市民を驚かせた。テレビで見る限り、当時はストロエスネル政権下で権勢を欲しい侭にした強者の面影は何処(いずこ)やら、家族や護衛の者に取巻かれ車椅子に坐ったモンタナロは、既に老衰で碌に口も利けない惨めな御老体で、先ず空港より市内のアドベンチスタ病院へ向かった。

 然し、無数のストロエスネル反対派分子や政敵の容赦ない過酷な弾圧下に犯された非情な拷問、又は闇から闇へと葬られた残虐な政治暗殺の罪は人権上でも決して時効になるものではなく、依然として 未だにモンタナロが負う幾多の刑事訴訟や逮捕状は健在(有効)である。依って政府当局はアドベンチスタ病院からリゴベルト・カバリェロ警察病院にモンタナロの身柄を移せしめ入院拘束した。そして、同病院の 周辺街頭には昔モンタナロの徹底した迫害に遭った犠牲者や遺族達の激昂した群衆が早速モンタナロの排撃デモに参集した。其の筆頭には夫人を牢獄で亡くし自身も迫害に遭った、オルティナティブ・ノーベル受賞者のマルティン・アルマダ人権活動家の姿も見えた。

 而して、モンタナロ(87)の健康事情は閉塞性動脈硬化症、パーキンソン病、老人性痴呆、精神  錯乱(せん妄)、高血圧、腰椎骨折後遺症等々で、意識も間接的にしかハッキリしない有様では、裁判の訊問やタクンブ刑務所に入獄させる事も出来ないと言う、司法府及び検事局夫々の公医の診断であり、且つ各種脳髄X光線等に依る精神状態の検査結果を待って、被告の裁判処置を今後如何に講じるかを 決める可きであると云う意見である。

 因みに、今回のモンタナロの思わぬ帰国には政府当局も不意を打たれた形で、旅券の有効期限も切れた亡命者を予告も無しにパラグアイ本国へ戻したホンジュラス国に対しエクトル・ラコグナタ新外相は 厳重に抗議した。然し、ホンジュラス外務当局筋は(6日現在)パラグアイより未だ件の抗議公文書は受けておらず、且つモンタナロ氏は本国へ何時でも戻るのは自由で、又ホンジュラス政府はモンタナロ氏の出国を 特にパラグアイ政府に対し事前に通牒する義務もなかったと説明している。

 なお、野党に廻った赤党コロラド幹事会のフリオ・セサル・ベラスケス政務書記長(前政権時代の 元厚生大臣)は、此の度のサビノ・A・モンタナロ元内相の帰国を事前にフェルナンド・ルーゴ大統領が知っていなかった訳はないと語った。同じく、ディオヘネス・マルティネス元外相(赤党元参議員)も現政権の何らかの保護を約されたがこそ国際逮捕令状が出ているに拘わらずモンタナロは今回の帰国に踏み切ったのであり、ルーゴ大統領が此の事を知っていなかった筈はないと云う意見である。

 最近の、(未だ大事に至らず幸いだったが)、先ず司法府(最高裁判所)に於ける仕掛爆弾に始まりIPS・社会保障局、国警鑑識局及び市内ミニ中心街の店舗や給油所の複数未遂時限爆弾事件の騒ぎは、モンタナロ帰国問題と相俟って、例のルーゴの隠し子スキャンダルを世論の目玉から逸らす為の一連の政策的“モンタージュ”に他ならないと言う専らの評判で、或いは案外此の説が本当なのかも知れない。

 処が、モンタナロの人権迫害の責任に対する多くの被害者の怨恨は根強いものがあり、ルーゴ大統領は此れ等の人々の心情を利用し、迫害被害者の闇埋葬地の所在を明らかにする様にモンタナロに呼び掛ける記者会見等を行ったりして遺族の共感を呼んでいる。随分ルーゴも“政治家”になったものだが、元司教大統領の複数に及ぶ女性問題が明るみ出て、世界の良い物笑いとなり此れ迄に無くパラグアイの名が一躍有名になったと云うのでは、善良な国民は全く遣り切れない気持ちなのである。





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tag : 2009年5月15日号

2009-04-30

何の祝賀なりや?




    「時事斜断」
                                       坂本 邦雄


 去る4月20日は、昨年多くの国民のホープとして連立政党勢力「改革の為の愛国同盟・APC」から全国総選挙に立候補し、パラグアイの第50代目大統領に目出度く選出されたフェルナンド・ルーゴ元司教の満一周年当選記念日に当り、APC・同盟は当日夜サンロレンソ市の“マルセリーナ・インスフラン公園”に於いて祝賀大会を開催した。然し、妙な事にルーゴの当選を可能ならしめた連立政党勢力の主要メンバーたる青党出身のフェデリコ・フランコ副大統領は同上大会に顔を見せていたに拘わらず、ルーゴ大統領以下各閣僚の居並ぶ雛壇の席にフランコは呼ばれず、又挨拶の演説をする事もなかった。ナンバーツーに対するルーゴのあからさまな辱(はずかし)めである。

 なお、ルーゴ大統領は今月17日ー19日の間、ベネズエラのクマナ市及びトリニダード・トバゴ国で夫々開催された米州ボリーバル代替構想会議(ALBA)と第5回米州首脳会議(サミット)に出席し、19日に帰国したが飛行場で閣僚の人事異動は行わないと言葉少なに発言したに拘わらず、翌日は突然農牧相、商工相、文部文化相及び司法労働相の四大臣を更迭した。後任にはエンゾ・カルドソ、フランシスコ・リバス、ルイス・リアルツとウンベルト・ブランコを農牧、商工、文部文化及び司法労働各新大臣に夫々任命した。 此の最後の二大臣は次官からの昇格である。何れもフランコ副大統領反対派系統の青党員である。

 此れ等一連の発令は、カンディド・ベラ・ベハラノ前農牧相との例のゴマ生産農家補助金給付問題の拗(こじ)れで、一度は辞表を提出した内閣府のミゲル・アンヘル・ロペス・ペリト官房長官は、ルーゴ大統領に慰留され、今度はスーパーミニスター格で復帰したオールマイティーの同長官から新旧各大臣に先ず電話で伝達された。此れ迄にない非礼な発令手段である。(ヘイセケ前商工相とリアルツ新文部文化相は夫々公務で外遊中だった)。斯かるアンチ・フランコ内閣人事は益々青党リベラルの分裂の溝を深めるものである。そして、此れを以ってルーゴ政権はパラグアイの極左化又は共産主義の定着を促すものであると ジョジト・フランコ元副大統領及びベラ・ベハラノ前農牧相をして言わしめるに至った。

 而して、ルーゴは2008年4月20日に大統領に当選して以来の一年間に27回にも及ぶ外遊に出掛けており、其の中少なくも5回はベネズエラのウーゴ・チャベス大統領と会合している。なお、チャべスに傾倒するエクアドルのコレア、ボリビアのモラレス、ニカラグアのオルテガ各大統領とも頻繁に会っている。特に 昨年8月15日の大統領就任式に来訪したウーゴ・チャべスとは翌16日に国会に諮(はか)りもしていない内容の 不明瞭な12件の各種国際協力覚書を調印している。

 然し、此の一年間(在権は未だ8ヶ月)にパラグアイの政経事情は悪化する事はあっても改善の兆しは全く見られず、フェルナンド・ルーゴは此れからも未だ何人も発覚し続けるであろう隠し子スキャンダル以外に其の存在が全く認められない。ルーゴ元司教は赤党コロラドの歴代腐敗政権に嫌気をさした国民の満腔の期待の許に与野党間の民主的政権交代の偉業を成し遂げた異色の人気大統領で、知名度の低いパラグアイ国の名を此れ迄になく世界に広めた事は誰しもが認める処である。
 
 処がイザ蓋(ふた)を開けて見たら、為政者としての能力はゼロで加えて事もあろうに聖職にあった頃からの複数の隠し子問題が暴露し、此れからも未だ何人もの庶子が現われて来るかも判らないとあってはルーゴに票を入れた多くの有権者は“騙された!!”とEQ \* jc2 \* "Font:MS PMincho" \* hps10 \o\ad(\s\up 9(ほぞ),臍)(ほぞ)を噛んでいるのである。元々カトリックの坊さんは妻帯出来ない厳しい禁欲戒律があるが、其れが何処まで本当に守られているかは疑問で、そこは程々に各自が上手くやっているのだろう、とは公然の秘密であった。特に田舎等では“パイ・コフード”(種付け坊さん)と云う呼び 方があるが、ルーゴさんも早速“国家の種畜”とか“全パラグアイ人のパパ”等と内外のマスコミに囃(はや)され、今度は別の意味で一躍パラグアイ・マチスモの“名声”を世界に馳せた。

 フェルナンド・ルーゴ大統領の威信は此れで地に落ち、国会でも大統領の重大なモラール問題として取り上げ、場合に依っては大統領の辞任を求める強い姿勢を示している。真面目な国であれば此れ程の(未成年女子を含めた)婦女凌辱(りょうじょく)問題を起こしたともなれば国会の政治弾劾に付される迄もなく、常識的にも内閣総辞職は当然だが、其処はパラグアイの事であれば終局は何(ど)うなるかは未だ見物(みもの)である。

 流石の旅行好きのルーゴも此の度の女性問題は応えたと見えて、今月23日にワシントンに於いて世銀の主催で開催されたラ米諸国経済ゼミナーへの出席を遠慮した。此れはルーゴ大統領の第28回目の外遊になる筈であった。先日アスンシオン市で漫画家の国際会議があったが、亜国の或る有名な漫画家はルーゴのお陰で漫画のテーマには事欠かないと評した。

 最近Servicios Digitales S.A.社が行った二度の世論調査に依ればルーゴの人気は覿面(てきめん)に当初の65%台から45%台に急落している。そして、ルーゴが隠し子の存在を告白した後では、再びルーゴに投票するかの問いに対しては大略してイエスが32%でノーが50%と及び分からぬが18%であった。

 因みに、ルーゴの隠し子スキャンダルについては、ローマ法王前使節のアントニオ・ルチベロ司教は、未だルーゴがサンペドロ教区の司教であった頃に既にルーゴの隠し子の問題を感知していて(2002-04)、バチカン法王庁は体よくルーゴを終身名誉司教に左遷した事実を、パラグアイ司教協議会は隠匿(いんとく)していたと言う教会内部からの告発もあって、カトリック教会は苦しい立場に置かれている。今回の ルーゴ問題の暴露をキッカケに“向う脛(すね)に疵(きず)をもつ身”の多くの坊さんが、ルーゴと同様な破目に陥る可能性が無きしにも非ずと云う事もある。

 以上の経緯を鑑(かんが)みるに、冒頭に述べた如く現政府は4月20日を祝う何等のメリットも無かったのである。パラグアイの有権者は投票はするが選ぶ事を知らぬ結果である。





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